以下に訳出した論評は、尹錫悦政権下における通信監視の深刻な状況を明かにしています。日本においてもサイバー安保法案など通信監視に関する深刻な状況があり、韓国における闘いにも学びながら、国境を越えた連携を深めていくことが大切だと考えています。(小倉利丸:JCA-NET)

[共同論評]尹錫悦政府国情院の通信監視増加の理由明らかにされなければ
− 捜査権廃止後、監聴(*1)はむしろ増え、通信事実確認資料の提供は3倍に増加

先の12月27日、科学技術情報通信部(*2)が発表した「2024年上半期通信利用者情報及び通信事実確認資料の提供、通信制限措置の協調の現況」(以下「通信監視統計」)によると、国家情報院に提供された通信事実確認資料件数が昨年(*3)の同じ期間の3倍に達することが明らかになった。監聴件数も増加した。ところで国情院の捜査権は2024年1月1日から廃止された状態だ。私たちは、国情院の捜査権が廃止された後、むしろ通信監視が増加した理由が何なのか透明に明らかにすることを政府に要求する。

科技部は、半期別に通信利用者情報の提供、通信事実確認資料の提供、通信制限措置に関する数値を各通信会社から提出を受け公開する。今回発表された統計は、2024年1月1日から6月30日までになされた通信監視に関するものだ。ところで2024年上半期の統計において、国情院が通信事実確認資料、すなわち通話内訳やインターネットIPアドレスを通信会社から提供を受ける件数が3,088件に及ぶことが明らかになった。これは昨年の同じ期間、すなわち2023年上半期993件だったのに比べて3倍を超える数値だ。昨年の件数もやはり、1年前の2022年上半期437件だったのに比べて2倍以上増加した。すなわち、尹錫悦政府国情院の通信事実確認資料取得件数が毎年127〜211%増加してきたのだ。

さらに、国情院の監聴件数も増加した。国情院は公開された監聴件数の99.9%を執行する機関だが、監聴件数が2023年上半期4,845件から今年の同じ時期5,278件に増加した。問題は2024年1月から国情院の捜査権が廃止され、該当捜査権がすべて警察に移管されたということだ。したがって捜査権が廃止された現在の国情院が適法に監聴を行うことができる場合は、通信秘密保護法第7条に限定される。この監聴は「国家安全保障に相当な危険が予想される場合、またはテロ防止法の対テロ活動に必要な場合に限り、その危害を防止するために」例外的に実施され、特に内国人に対する監聴は高等法院(*4)首席部長判事の許可を受けなければならないため、非常に厳格に統制される。ところが捜査権が廃止され、行政調査権だけが残った国情院の監聴件数と通信事実確認資料が、例年に比べて大幅に減るどころか急増するようになったのだから、深い疑惑を感じざるを得ない。

尹錫悦政府になって通信監視統計から発見される怪しい点はこれだけではない。まず、尹錫悦政府の最初の通信監視統計の発表(2022年下半期分、2023年7月21日発表)から通信手段別の監聴統計が消えた。通信手段別の監聴統計は、2000年に通信監視統計が発表された後から24年間、一度も欠落したことがない。特に、国民に敏感な移動電話監聴統計の場合、現在なされていないため「0件」と集計されてきた。科技部と国情院が何の説明もなく、いきなり統計を欠落させた理由を明らかにしなければならない。

一方、法院で発刊した司法年鑑統計から見てとれる通信監視実態でも異常な点が発見される。司法統計で監聴は、犯罪捜査を目的とする地方法院の許可と国家安保を目的とする高等法院の許可に分けて集計される。ところが10件以内にとどまっていた毎年の監聴請求が2023年20件に急激に増え、特に国家安保を理由とした高等法院許可請求件数が14件にもなる。ところが法院は、高等法院の請求中9件、地方法院の請求中5件を(一部)棄却した。国情院の監聴請求に無理な側面があったという傍証でないはずがない。しかも国情院が執行する監聴件数で、科技部統計と司法年鑑統計の間に大きな差が出る理由も明らかにされなければならない。推定するに、法院の許可を受けない大統領承認監聴や緊急監聴が多かったと思われる。平素、法院の統制外の監聴がこれほど多かったとすれば、特に非常戒厳前後に法院の許可なく違法な監聴が施行されはしなかったのか気にかかる。

12月3日、尹錫悦は違憲・違法的内乱を敢行しながら、依然として国民の審判を回避し、厚かましくもふんぞり返っている。私たちは、この権威的な大統領と政府が、もしや不当な通信監視も行ったのではないかと憂慮している。尹錫悦政府になって発表された監聴統計で疑問が提起される内容について、政府は今からでも疑惑を透明に解消しなければならないだろう。国民を監視する不法行為をほしいままにしたあげく、国情院の捜査権が廃止された趣旨を忘却し、通信秘密保護法を便法的に解釈して違法的な監視を執行したことが、どうかなかったことを願う。さらに私たちは、科技部と国情院が不当に削除した監聴手段別統計を復旧し、国民の前に監聴実態を透明に公開することを要求する。国情院等の通信監視資料が尹錫悦の内乱行為にも活用されたかどうかも、また必ず捜査がなされなければならない。終。

2025年1月2日

国情院監視ネットワーク:
民主社会のための弁護士の会、民主主義法学研究会、進歩ネットワークセンター、参与連帯、天主教人権委員会、透明社会のための情報公開センター、韓国進歩連帯

訳註:
(*1) 通信秘密保護法第2条第7号は「『監聴』とは、電気通信に対して当事者の同意なく電子装置・機械装置等を使用して通信の音響・文言・符号・映像を聴取・共読し、その内容を知得又は採録したり、電気通信の送・受信を妨害することをいう。」と定義している。https://law.go.kr/LSW//lsInfoP.do?lsiSeq=259011&chrClsCd=010202&urlMode…
(*2) 「部」は日本の「省庁」に相当する行政機関。
(*3) この文書は2025年1月2日付けだが、文中の「昨年」「今年」の表記は、原文のママ。
(*4) 「法院」は日本の「裁判所」に相当する司法機関。
(翻訳 井上和彦)