以下に紹介するのは、現在国連総会にかけられているサイバー犯罪条約に関して、条約案を審議してきたアドホック委員会にAPCとDerechos Digitalesが連名で提出した条約案批判の日本語訳です。条約案については、様々な観点から批判がなされてきましたが、この文書では、ジェンダーを中心に据えての批判となっています。一見すると、「サイバー犯罪」がジェンダーとどのように深い関連性があるのか、日本の状況からは、見えにくい観点かもしれません。サイバー犯罪条約はジェンダーをめぐる国境を越えての権利の犯罪化に加担するものであり、非常に深刻な結果をもたらしかねません。全文の日本語訳はここで読むことができます。以下は、その冒頭部分の紹介です。
なお、国連サイバー犯罪条約関連の情報はこちらにまとめてあります。


情報通信技術の犯罪目的使用への対処に関する包括的な国際条約を策定するための特別委員会(アドホック委員会)第 5 回会合への提言

はじめに

Derechos Digitales は 2005 年に設立された非営利の非政府組織で、ECOSOC の協議資格を有する。私たちは、デジタル環境における人権、特に表現の自由、プライバシー、知識・情報へのアクセスに関する権利の擁護と促進に取り組んでいる。

進歩的コミュニケーション協会(APC)は、情報通信テクノロジー(ICTs)の戦略的使用を通じて、平和、人権、開発、環境保護のために活動する人々に力を与え、支援することを目的とした国際的ネットワーク団体である。APC には 62 の組織メンバーと 29 のアソシエイトがおり、主にグローバル・サウスの 74 カ国で活動している。私たちは、すべての人々が ICTs の創造的な可能性に容易かつ平等に、そして安価にアクセスできる世界を構築し、彼らの生活を向上させ、より民主的で平等主義的な社会を創造するために活動している。APC は 1995 年、国連経済社会理事会(ECOSOC)に対して第一カテゴリーの協議資格を与えられた。

Derechos Digitales と APC は、今回のアドホック委員会第 5 セッションに貢献する機会を歓迎する。両団体はオンライン、オフラインを問わず、人権の保護と促進に取り組んでいる。この意味で、私たちは以前にもこのプロセスにおいて、市民社会団体、人権活動家、デジタ ル・セキュリティ研究者、内部告発者、ジャーナリストを標的に、人権を弱体化させるツールとしてサイバー 犯罪に関する立法が乱用されることへの懸念を表明した。

グローバル・サウスの視点から見ると、私たちはサイバー 犯罪に関する立法が、デジタルの権利を犯罪化し、反対意見や声を上げようとする女性を黙らせ、表現の自由を脅かし、国家による監視を正当化するために使用されるのを見てきた。

デジタルの領域における人権保護の重要性を確認しつつ、私たちは、サイバー監視や検閲全般を正当化する広範な規制を通じて国家が濫用する可能性を回避するために、必要なセーフガードを強化する必要性を想起する。それゆえ、他の市民社会団体とともに、私たちはこの特別委員会に対し、すべての規範的提案が国際人権法において加盟国が負う義務に合致していることを確認し、それに反するすべての提案に反対するよう求めてきた。

デジタル空間も刑事制度も、既存の構造的不平等を前提とする社会の中に組み込まれている。デジタルのテクノロジーも、それを支配する法律や規範も中立ではない。それらは人権の行使を促進する可能性を秘めているが、同時に構造的不平等を永続させ、悪化させる可能性もある。このことを念頭において、私たちは、この将来の条約の中心的な要素は、ジェンダーの視点を統合することであると考える。

デジタルの時代におけるプライバシーに関する最新の国連総会決議(A/RES/77/211)において、同総会は、ジェンダーに基づく暴力だけでなく、デジタルやオンライン空間で起こりうるあらゆる形態の差別を防止する方法として、プライバシーの権利の促進と尊重の重要性を認識している。実際、デジタルテクノロジーや関連政策の概念化、開発、実施においてジェンダーを主軸とした取り組みを奨励している。

市民社会組織はまた、例えばフィリピンの 2012 年サイバー犯罪防止法(CybercrimePrevention Act of 2012)に関しても懸念を表明した。この法律は、ジャーナリスト、ブロガー、インターネット・ユーザーを黙らせるために使用されてきた広範ですべてを摘発する条項を含んでおり、またパキスタンの 2016 年電子犯罪防止法(Prevention of Electronic Crimes Act (PECA))に関しても懸念を表明した。
例えば、
https://www.apc.org/sites/default/files/Philippines_report_2020.pdf
https://www.hrw.org/news/2022/02/28/pakistan-repeal-amendment-draconian…
を参照のこと。

例えば第 87 条(2)の「n」および第 90 条(2)の「g」において、ジェンダーを主軸とした取り組みに 言及されているにもかかわらず、私たちは、アドホック委員会の第 5 会期で議論される統合交渉文書(A/AC.291/19)が、人権に関するより大きなセーフガードと、条文全体にわたる ジェンダーの視点の統合を要求しているものと考える。

国際協力、データの交換と処理、捜査技術に関連する条文に、広範な手段や あいまいな用語が含まれないようにすることが最も重要である。これらの条文は人権基準、特に合法性、必要性、比例性の原則に厳格に従わなければならない。例えば、効果的な人権保障や監督機能なしに国家機関間のデータ交換を可能にする広範な刑事的枠組みによって許容されうる大規模なサイバー監視とその人権への潜在的影響の大きなリスクを考慮することも必要である。これら 2 つの懸念については、以下に詳述する。

全文の日本語訳はここで読むことができます