(訳者前書き)以下は、APCのウエッブサイトに掲載された記事の日本語訳です。昨年10月以降のイスラエルによるガザにおけるジェノサイドと密接に関わるソーシャルメディア上でのパレスチナ人へのヘイトスピーチの蔓延について、とくにこの記事では、Facebookを運営するMETAの責任を厳しく批判しています。ヘイトスピーチの環境は、こうした言論を発信する個人の問題に還元できません。むしろ情報環境のインフラを担う企業や政府が構造的に権力の利益を優先させ人権や国際法を無視する態度をとっているところに問題があります。もっぱらイスラエル国内だけで通用しているヘブライ語圏でのコミュニケーション環境の特殊な状況を私たちは見逃しがちです。この記事は、こうしたイスラエル国内の状況を伝えてくれています。著者のAhmad Qadi は、7amleh – The Arab Center for the Advancement of Social Mediaの活動家。7amlehはイスラエルのハイファに拠点をおくパレスチナ人の人権問題にとりくむ団体でAPCのメンバー団体です。(小倉利丸 JCA-NET理事)


パレスチナ人に対するオンライン上の暴力が野放しにされていることが、ジェノサイド的暴力や組織的な差別を助長している
著:アフマド・カディ(Ahmad Qadi)
2024年6月28日|2024年6月28日更新

本稿は、2024年のAPCコミュニティ・ギャザリングにおけるLightning Talk「Digital freedoms censorship」を基にして書かれたものである。

2023年10月27日、国連人種差別撤廃委員会は、「10月7日以降、特にインターネットやソーシャルメディア上でパレスチナ人に対する人種差別的ヘイトスピーチや非人間化が急増している」ことについて深刻な懸念を表明した。この懸念は、2023年10月以降、特にソーシャルメディアプラットフォーム上でヘブライ語でパレスチナ人に対する暴力的な挑発的なコンテンツが広く拡散されている中で生じた。

ソーシャルメディア上のヘブライ語による暴力的なコンテンツの急増は著しいが、パレスチナ人に対する組織的に暴力的なコンテンツやヘイトスピーチは10月以前から存在していた。2023年1月から9月までの間、7amlehはFacebookを含むさまざまなソーシャルメディアプラットフォーム上で約700万件の暴力的なヘブライ語コンテンツを検出しており、オンライン上の暴力的なコンテンツの24.57%を占めていた。

Metaが運営するFacebookは、この暴力的なコンテンツが拡散する主要なプラットフォームの1つである。このようなコンテンツが広範囲に拡散しているにもかかわらず、Metaは、特にガザとその人々に対するジェノサイド戦争が継続している間、パレスチナ人に対するオンライン上の暴力が横行している現状に対処するための実質的な対策や方針変更をまだ実施していない。

長年にわたる失敗:Metaのヘブライ語コンテンツの監視が不十分

Business for Social Responsibility(BSR)は、2021年5月に発表した「 Human Rights Due Diligence of Meta’s Impacts in Israel and Palestine in May 2021Meta's Impacts in Israel and Palestine[イスラエルとパレスチナにおけるMetaの影響に関する人権適正評価]」と題する報告書の中で、Metaはヘブライ語には機能的な「ヘブライ語敵対的発言分類器」を欠いているが、アラビア語にはそれがある、と結論付けた。その結果、ヘブライ語コンテンツはポリシーの施行が不十分なものとなってしまった。同報告書は、他の提言とともに、Metaに対し「機能的なヘブライ語分類器を整備する作業を続ける」よう勧告した。

2023年9月のその後の更新で、MetaはBSRの提言を採り入れ、2022年に最初に導入されたヘブライ語の分類器を更新したと発表した。これらの更新は、ヘブライ語の暴力的な発言など、有害なコンテンツの検出と管理を強化することを目的としていた。しかし、私たちが行った調査と7amlehのドキュメントは、異なる事実を明らかにしている。Metaの主張にもかかわらず、7amlehのViolence Indicatorが2023年10月以降に検知したパレスチナ人を対象とした暴力的なヘブライ語コンテンツが大幅に増加している。この指標は、そのようなコンテンツを約700万件特定しており、そのうち20.8%がFacebookのプラットフォーム上にある。これは、Metaのコンテンツモデレーション能力で深刻な問題が続いていることを示唆している。

同時に、Metaはパレスチナ/アラビア語コンテンツに対する信頼閾値を80%からわずか25%に引き下げた。つまり、コミュニティ基準に違反する可能性があるコンテンツが25%ある場合、即座に削除されるということである。これにより、パレスチナコンテンツの過剰な規制に拍車がかかる一方で、ヘブライ語による違反コンテンツが多数Metaのプラットフォーム上に放置されることとなった。

暴力的なレトリックを繰り広げるのは組織や一般個人だけでなく、イスラエルの政府高官や政策立案者もそのような活動に関与している。2023年10月7日に調査が開始されて以来、Law for Palestineは、イスラエル政府高官や著名人がパレスチナ人に対して行っている暴力やジェノサイドへの広範な教唆を暴露する説得力のある証拠を入念に収集してきた。7amlehの文書には、イスラエル人政治家、軍人、ジャーナリスト、その他の有力者によるソーシャルメディア投稿、テレビインタビュー、公式声明に現れた暴力やジェノサイドへの教唆が500件以上含まれている。

これは国際司法裁判所も指摘している。判決の中で、国際司法裁判所はイスラエルに対し、南アフリカが提起したジェノサイド訴訟を受けて、「ガザ地区に住むパレスチナ人グループに対するジェノサイドへの直接的で公的な教唆を防止し処罰するために、その権限の範囲内のあらゆる措置を講じる」よう命じた。命令された措置のなかには、公人によるガザへの教唆が具体的に言及されており、パレスチナ人をターゲットにした暴力的なデジタルコンテンツの深刻さが浮き彫りになっている。

イスラエルは国家として、パレスチナの人々に対する暴力的なコンテンツに対して何の対策も講じず、加害者を責任追及しないことで、その共犯者となっている。占領国として、イスラエルは自国が管理するすべての人々を保護し、自国の市民がデジタル犯罪に関与した場合は責任追及する義務がある。

イスラエル政府はオンライン上の暴力的なコンテンツを助長しているだけでなく、アメリカやその他の西洋諸国におけるパレスチナ人に対する誤情報の拡散も支援している。ここ数か月、複数の団体がガザ戦争に関連したイスラエル政府による影響力行使の可能性を指摘している。1月には、イスラエルの新聞「ハアレツ」が、イスラエル政府がオンライン影響力キャンペーン用のテクノロジーを購入したと報道した。2月には、研究者やDFRLabが、パレスチナ難民と一緒に仕事をする国連職員や、黒人民主党議員を攻撃する偽のソーシャルメディアアカウントを発見した。3月には、DFRLabがカナダで反ムスリム的な情報を拡散する別のネットワークを発見した。

MetaとOpenAIの報告によると、イスラエルに拠点を置く企業STOICが、パレスチナとイスラエルに関するオンライン上の政治的なナラティブを操るためにAIツールを使用していたことが確認された。STOICはChatGPTを活用し、誤解を招くようなコンテンツを生成し、それをMetaのプラットフォーム上の数百もの偽アカウントによって拡散させ、パレスチナ人に対する誤情報や偏見を視聴者に与えようとしていた。

パレスチナ人の声を封じ込め、ガザの暴力を煽る

パレスチナ人に対する暴力的な中傷的コンテンツのオンライン上での拡散は、表現の自由と言論の自由を萎縮させ、情報へのアクセスを損ない、ジェノサイド的なガザ戦争と相関関係にある。
Adalah が発表したレポートによると、2023年10月にガザ戦争が始まって以来、イスラエル国内のパレスチナ人学生は、彼らの表現の自由とパレスチナ人としてのアイデンティティを標的とした厳しい規則の執行に直面していることが明らかになっている。右翼の学生団体や教育機関は、ガザへの連帯を表明したりコーランの詩を引用したりする学生たちのソーシャルメディアの投稿を精査し、それらを「テロ支援」とレッテルを貼っている。その結果、少なくとも36の大学が124人のパレスチナ人学生に対して処分を下し、Adalahは95人の学生の代理人を務めた。これらのケースのほぼ半数は停学または退学処分となり、女性学生(79%)に不均衡な影響を与えた。これらの処分は、イスラエルの教育大臣も支持しており、露骨な挑発的な投稿を行うユダヤ系イスラエル人学生に何の報復もないこととは対照的である。

また、Adalahは、イスラエル市民であるパレスチナ人に対する中傷や扇動キャンペーンの影響について詳しく説明した報告書を公表した。この報告書では、ガザでの流血事件に同情を示すパレスチナ人に対して、イスラエル当局、企業、教育機関がとった抑圧的な措置が概説されている。これらの措置には、数百人の逮捕、職場での降格、解雇などが含まれる。

7amlehは、オンライン上の暴力的なコンテンツの拡散と、実際に現場で起こる残虐行為との相関関係を、過去の事例で実証してきた。2023年初頭に占領下の西岸地区フワラの町を標的とした暴力的なデジタルコンテンツに関する報告書で、7amlehは、扇動的なオンラインキャンペーンがオフラインでの大規模な攻撃へと発展し、パレスチナ人の死傷者、数百台の車の焼失、家屋や農作物への甚大な被害をもたらしたことを明らかにした。ガザに対する戦争が続く中、オンライン上の暴力に好都合な環境は依然として続いており、その規模はさらに拡大している。

Metaは、ガザに対するジェノサイド的レトリックをこれまで以上に許容している。人権擁護活動家や人権擁護団体は、ミャンマーでのジェノサイドにおけるMetaの役割と現在のガザでの残虐行為との類似性を指摘し、パレスチナ人に対する暴力的レトリックを容認する同社のプラットフォームを批判している。Metaは、人々の安全や生命よりも利潤を優先することで、過去の経験から学ぶことなく、驚くべき規模で危害を永続させている。

野放しになっているオンライン上の暴力の影響

2023年10月以降、特にソーシャルメディアプラットフォーム上でパレスチナ人に対するヘブライ語の暴力的なコンテンツが急増しており、これは国連人種差別撤廃委員会が指摘している深刻な懸念事項である。 Metaはコンテンツの監視システムの改善を主張しているが、ヘイトスピーチや暴力への扇動が広く拡散し、依然として抑制されていない。この根強い問題は、イスラエル政府の支援による宣伝キャンペーンや、イスラエル市民や政府高官が共有する暴力的なコンテンツに対する説明責任の欠如によってさらに深刻化している。

このオンライン上の暴力が野放しにされていることの意味合いは深刻である。表現の自由と情報へのアクセスを損なうだけでなく、パレスチナ人が経験する物理的な暴力と直接的な相関関係がある。

結論として、ソーシャルメディア上でのパレスチナ人に対する暴力や中傷的なコンテンツの拡散は、ジェノサイド的暴力や組織的な差別というより広範な文脈を反映し、助長するものである。このことは、強固かつ効果的なコンテンツ管理ポリシー、オンライン上のヘイト行為の加害者に対する説明責任、そして特に占領下にある人々を含むすべての人々の権利と自由の保護に対するコミットメントが緊急に必要であることを明確に示している。これらの問題に対処することは、危害を軽減し、より公正で公平なデジタルおよび現実世界の環境を促進するために不可欠である。

画像:パレスチナ緊急集会 by Matt Hrkac via Flickr (CC BY 2.0 DEED)

Ahmad Qadi は、人権擁護活動家、研究者、活動家として精力的に活動している。現在、彼は 7amleh – The Arab Center for the Advancement of Social Media のモニターおよびドキュメンテーションマネージャーを務めており、デジタル上の権利侵害を記録し、オンラインユーザーがデジタル上の脅威や検閲から確実に保護されるよう責任を負っている。

出典:https://www.apc.org/node/40237