韓国では、ウクライナの戦争取材に韓国外務省が厳しい渡航制限を課しており、これに違反したとしてフォトジャーナリスト、チャン・ジニョンさんが告訴され有罪になる事件が起きました。韓国では、この判決は、報道の自由への政府による圧力であり、渡航制限の根拠となっている旅券法がそもそも憲法違反であるとして、憲法裁判所への提訴が計画されています。JCA-NETは、写真家チャン・ジニョンさんのこの闘いへの連帯を表明しています。以下は、APCのメーリングリストに投稿された韓国からの支援呼びかけ文から、その一部を訳して掲載したものです。なお、6月23日午前11時からソウルで記者会見も開かれる予定です。

ジャーナリストが ウクライナの戦争を取材したことで刑事罰を受けました

私たちは、写真家チャン・ジニョンJang Jin-youngさんとともに、パスポート法第17条に異議を唱えるため、憲法裁判所に提訴します

フリーランスのフォトジャーナリストであるチャン・ジニョンさんは、政府の許可なくウクライナの戦争を取材したことで刑事罰を受けました。本日、報道の自由を守るため、旅券法の合憲性の裁決を求める要望書を提出します。ジャーナリストは、紛争地域を記録するという勇気ある行為に対して、決して刑事罰を受けてはなりません。

チャン・ジニョンは、ロシア軍によるウクライナ侵略を知り、3月5日にポーランドに飛び、2019年に香港の民主化デモを取材したときと同様に、最前線に足を運び、戦争と現地の人々の人間としての苦しみを取材しています。やがて、<SisaIN>や<Workers>といった韓国のメディアが、チャンさんの写真を韓国の読者に提供しました。また、「Forbidden Scene」という写真展にも参加しました。

一方、韓国政府は2022年4月14日、チャン・ジニョンさんを旅券法17条1項(旅券等の使用制限)違反で告訴しました。「戦争が起きた国においてのみ、特定の国や地域への訪問や滞在を停止できる 」と規定していますが、「取材報道」の場合は例外も可能です。 写真家のチャン・ジニョンさんは、警察と検察の取り調べの結果、2023年3月28日、500万ウォンの罰金を科せられました。しかし、この例外は、チャン・ジニョンさんには適用されませんでした。というのも、一般的な海外紛争取材は限定された許可制の下で行われるからです。取材・報道は事実上、外務省の許可のもとで行われているのです。

旅券法17条は、いかなる報道・出版の許可制も禁止する韓国憲法21条2項に違反し、むしろ海外紛争取材を許可制で運用する根拠として機能しています。そのため、パスポート法の合憲性に関する裁決を求める要望書を提出することになりました。

現行の旅券法はメディアの取材や報道を制限する根拠として使用されるため、その被害は一般市民の間でも感じとられています。例えば、ウクライナ戦争んお場合。外務省は、外務省が指定したジャーナリストしかウクライナの取材を認めませんでした。戦争が始まった当初、外務省は「チェルニフツィ(場所)」で「3日以内(期間)」そして「4人以内(人数)」などの条件をつけて、認められたメディアの社員のみにウクライナ取材を許可していました。欧米メディアはすでにCNNから75名以上、英国から50名以上の記者がウクライナに滞在していました。現地取材が制限されているため、人々は韓国からではなく、海外メディアの視点で戦争を見るしかないのです。

外務省のウクライナ取材に対する極端な制限について、韓国放送協会(KBS)のユ・ウォンジュン記者は、「外務省の最初の提案は1泊2日だった」とし、「2泊3日というのは戦争取材なのか遠足の意味なのか」と疑問を投げかけました。ユさんは、外務省の要求を満せるか懸念を抱きつつ、かろうじてウクライナを取材することができたと語っています。「外務省は、法律や施行令の意図以上に意識的に厳しいメディア規制を行おうとしているのではないか と疑わずにはいられません。憲法が保障する報道の自由や、法律が定める『公共の利益』のための報道の原則を妨害する法的権限があるのでしょうか」と問いかけました。

KBSの状況はマシです。というのも、KBSの記者は「メディア企業の社員」であり、これがウクライナ取材の許可を得るための条件になっていたからです。一方、フリーランスのフォトジャーナリストであるチャン・ジニョンさんは、当初、戦争取材の許可を得られませんでした。 独立系のドキュメンタリー制作者や写真家も同様です。彼らは戦争を取材する機会すら与えられないのです。2007年のパスポート制限について、紛争ジャーナリストのキム・ヨンミさんは「国際秩序の中で生じたり、あるいは戦争の双方の側からもたらされるさまざまなプロパガンダに振り回されないためには、私たちは正確な情報が必要です。正確な情報がなければ、私の国は世界のニュースについていけなくなります。旅券法17条が、戦争報道に必要な情報網や専門記者などのインフラを破壊しているます」と懸念を述べた。

現行の旅券法は憲法違反であるだけでなく、韓国のジャーナリズムの発展を妨げています。報道の自由は許可に依存してはいけません。韓国はパスポート法を使用して、ジャーナリストが国際紛争を取材するのを阻止し、制限しています。他の国は、戦争地域から安全にレポートできるようにジャーナリストを支援・保護することに重点を置いており、許可制をとっていません。

私たちの立場のようなものです。

第一に、現行の旅券法はメディアを事実上「許可制」に閉じ込めており、大韓民国の憲法に違反しています。

第二に、旅券法に基づき旅券の使用を制限する権限を有する外務省が、「報道を目的とした訪問」に該当するかどうかを極端に厳しく判断し、報道の自由を侵害していること。

第三に、人々の知る権利のためにウクライナ戦争を取材して帰国したジャーナリストに対する刑事罰は不当だということです。

私たちは、写真家チャン・ジンョンさんの略式命令に対し、正式裁判を提起し、違憲の法的申し立てを行う予定です。同時に、韓国社会におけるジャーナリストの刑事罰を告発するため、国連プライバシー特別報告者に共同主張文を提出する予定です。