(訳者前書き)以下は、APCのサイトに掲載された、韓国における経口中絶薬やリプロダクティブライツの情報提供サイトの遮断への抗議と裁判支援の国際連帯の表明です。下記で焦点となっている経口中絶薬のオンライン処方や情報提供サイトwomenonweb.orgは、カナダに拠点を置き、世界各国の女性たちに、経口中絶薬についての情報やオンラインでの診断に基く処方箋や薬の提供などを行なっています。日本語でも情報を提供しています。国によっては中絶の事実上が非合法化されているところもあり、人口妊娠中絶の問題は性差別主義者や極右のターゲットになってきており、これが現実の政府の政策やネット環境にも影響を及ぼしています。こうした経口中絶薬を必要とする女性たちは、ネットの検索で薬の情報を得ようとしますが、検索エンジンが政治的配慮から表示の順位を意図的に下げる場合があり、women on webもGoogleの検索でランクダウンを被った経験があります。昨年暮にwomen on webは、こうした検索サイトによる「検閲」への危惧を表明しています。日本では、韓国で起きているようなサイトの遮断は生じていませんが、様々な手法でネットへの規制が強化されかねない状況にある日本においても、この問題に注目し、韓国での闘いに連帯の意思を表明したいと思います。(JCA-NET 小倉利丸)


2022年3月10日

2020年12月13日、韓国通信規格委員会(KCSC)は、女性の健康、性と生殖に関する権利、薬による中絶に関する情報を提供し女性が安全で適時かつ安価な中絶医療を受けられることを目的にしたWomen on Webのウェブサイトwomenonweb.krが、薬剤師ではない者による未処方薬の販売を促進するとして、韓国でのアクセスを遮断する裁定を下した。 このウェブサイトをブロックする裁定は、2019年3月11日に出されたwomenonweb.orgに関する同様の裁定に続くものだ。オープンネットOpen Net、ウーマンオンウェブ国際財団Women on Web International Foundation、ヒューマン・ライツ・ウォッチHuman Rights Watchなどの署名団体は、KCSCの裁定が、未承認の方法で薬を流通させているとして韓国国内で同サイトを遮断する韓国食品医薬品庁(KFDA)によるKCSCに対する要請に盲目的に追従し、通信ガバナンスに基づく独立した専門的分析もなく、女性の知識へのアクセスを過剰に制限していることを懸念している。この裁定は、中絶を必要とする韓国の女性が重要な健康情報にアクセスできなくすることによって、経済的・物理的にさらなる困難をもたらすものだ。最近、韓国が中絶制限法を違憲とする決定を下して以来、中絶を必要とする女性は、経口中絶薬が承認されていないという法の空白に陥っており、こうした情報の必要性はより一層切実なものになっている。したがって、以下に署名した団体は、Women on Web International Foundationに代わって、オープンネットがKCSCの判決を取り消すために行政裁判所に提訴することを支持する。

KCSCの裁定は行き過ぎである。KCSCは、個々のウェブページをブロックすることが技術的に不可能であるという理由で、一部のコンテンツがブロックの基準を満たしていないにもかかわらず、サイト全体を閉鎖するという慣行を維持している。Women On Webのサイトは、中絶に関する情報だけでなく、韓国社会で注目されている女性の性的権利やリプロダクティブ・ライツに関する情報を提供してきた。ウェブサイトの中絶に関する情報でも、単なる錠剤のリソースにとどまらず、世界保健機関(WHO)などの主要な医療機関が支持する安全で効果の高い薬による中絶に関するより広い有用な情報を提供している。同じウェブサイト上の他の情報が必要な医薬品へのアクセスを容易にし、韓国で薬剤師のみに認めている医薬品の販売に関する薬局法に抵触する可能性があることを理由に、韓国の女性が薬による中絶に関する一般情報にアクセスすることを禁止することは、女性の性と生殖に関する権利を侵害することになる。韓国は一般的に国内法の履行に関心を持つが、その関心は、特に問題となっている法律が女性のリプロダクティブ・ライツを制限している場合には、このような徹底的な検閲は正当化されない。実際、WHOは薬による中絶は、専門的な医療行為や直接の監視がなくても、医療従事者からの情報やサポートが利用できる場合(遠隔医療を通じた場合も含む)、12週目までは自宅で安全に自己管理できると明確に述べている。WHOは、薬による中絶のためにミフェプリストンmifepristoneとミソプロストールmisoprostolの使用を推奨しており、これらの医薬品は必須医薬品リストに含まれている。ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、ウェブサイトをブロックすることは、中絶だけでなく、一般的にセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスと権利に関する健康情報を得る権利の実現を妨げるものであるとしている。

さらに、この裁定は、韓国の国内法の求めに応じたものとはいえないかもしれない。Women On Webが提供する中絶薬は、韓国国外に配送されるかもしれず、その場合、取引は韓国国内で行われるわけではないので、薬を購入するために国境を往復するのと同様に、韓国の薬事法を厳格に遵守する必要はない。ウェブサイトの1ページが韓国行きの配送を幇助する可能性があるというだけで、ウェブサイト全体をブロックするのは明らかに行き過ぎで不当である。最後に、韓国の薬局法は医薬品の「販売」のみを規制しているが、Women on Webは薬用中絶薬提供のためのいかなる支払いも受け付けていない。女性は任意で好きな金額を寄付することができるが、その寄付金もピルの調達費用には充てられず、情報の維持と提供のみに使われている。

KCSCは、他の行政機関、政府、権力団体、イデオロギーから独立した専門家集団であることを主張している。しかし、KCSCは、女性が情報を求める社会的背景を考慮することなく、KFDAの要請に機械的に従ったと思われる。KCSCの決定は、オンラインコミュニケーション空間のガバナンスに関する高度な専門知識を有しているという主張を裏切るものだ。このような理由から、インターネット上で行政検閲を行う国はごく少数であるが、韓国ではオンライン検閲によって執行される法律が薬事法を含むほぼすべての法律にまたがるという極めて異例な国になっている。

KCSCが経口中絶薬の流通を阻止するためにウェブサイトの閉鎖を決定を下したのは、こうした薬の流通が女性の安全を脅かすからだからだと思われる。しかし、その裁定は、女性たちがこれらの必須医薬品のために高い費用を払い、別の場所で入手することを余儀なくされるため、より弱い立場に立たされていることになる。薬による中絶を認めるかどうかの政策決定は、一刻を争う状況にある女性たちが最大の犠牲者となるなかで、長期にわたって先延ばしにされてきた。

私たちは、KCSCの専門家らしくない無責任な裁定に失望を表明する。私たちは、自律性を奪われる危険にさらされている女性たちと連帯し、政府に対して、(a)安全かつ合法的な中絶へのアクセスを保証する法律と政策によって法的空白を埋めること、(b)WHOガイドラインに従って経口中絶薬の使用を許可し、入手とアクセスを保証すること、(c)中絶を含む性と生殖に関する健康と権利についての情報アクセスを確保することを要求する。私たちは、他の行政機関の一方的な要請を社会的背景を考慮することなく是非の判断せずに相手の言い成りのKCSCの裁定に対して訴訟を提起し、KCSCが真の独立性と専門性をもって生まれ変わることを願う。

署名団体
Signatories
Open Net
Women on Web International Foundation
Progressive Network Center Jinbonet
Southeast Asia Freedom of Expression Network (SAFEnet)
Open Observatory of Network Interference (OONI)
Manushya Foundation
The Tor Project
Wikimédia France
Women’s Global Network for Reproductive Rights
Women on Waves
Philippine Safe Abortion Advocacy Network
Isango Lencube Ko
Ranking Digital Rights
Africa Open Data and Internet Research Foundation (AODIRF)
Association for Progressive Communications (APC)
Ipas
eQualitie
Human Rights Watch

出典:https://www.apc.org/en/pubs/international-coalition-support-filing-suit…